道のり9

初日
新規店らしい新しい木の匂いやまだ定まらぬ物の配置で不馴れな雑然としたお店に着いたのは確か07:30くらいだったと思います。

今だから分かりますが、新規店には独特の匂いと空気感があります。後にスペースはドンドンなくなるのですがやたら無駄なスペースの使い方を必ずしています。そこから工夫に工夫を重ねてベストポジションを割り当てていくのですが、僕はその作業が妙に好きです。小学生の時に秘密基地を作った感覚と同じです。自分の好みと都合に合わせて棚を付けたりなんか付けたりはずしたり。動線に合わせて少しでも早く便利に仕事ができるように工夫することが妙に好きです。気に入った収納スペースができると、訳もなく使います。

話がそれましたが、そんな店内に出勤すると厨房には誰もいませんでした。
気配のするほうへ行くとそこはパティシエさんの厨房でした。
挨拶をして、どうすればいいか聞くと「とりあえず着替えておいで」と言われ適当に空いたスペースで渡されたコックコートに着替えて先ず初めての仕事はアプリコットを1/4にカットすることでした。軽い身の上話なんかを聞かれながらだれにでもできることをいくつかやらせてもらえました。
パティシエさんは2人いたのですが、そのうちの1人にはその後ずっと気にかけていただき、現在なお184のジェラートを作ってくれています。
そうしている間に料理人の諸先輩方が出勤。「ほなあっちに行っておいで」ということで、いよいよ料理人としての何かが始まりました。

一週間ほどはコテだめしといった具合。しかしやることなすこと初めてすぎて、頭の中は大忙し、数カ月くらいは洗い物だけの覚悟をしていたのでオープン前の仕込みを少しでもやらせてもらえたのは意外でした。
ろくに包丁も持ったことがない状態だったので、なにもかもおぼつかなかったです。人参を千切りにしてみろと言われて備え付けの包丁の中から出刃包丁を選んでそれをしたり、「タイム持って来て!」と言われてダッシュでタイマーを持っていったり、失敗だらけ。一日が三日間に思えたし、一週間が一ヶ月くらいに思えました。必死のパッチとはこれでした。

つづく
2014.11.05